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    「ぜひ、さういふことに」

    「何かの、いつたいあの山を掘つても引合ふのかな」

    「あのね、何ですよ――」

    「あ、さうだ。お茶、お茶。おい、お茶を出してくれ」

    「お粗末ではござりまするが、どうぞごゆるりと」

    黒い影はぴよこりとお辞儀をした。それから台所から射す光りの中に全身を現すと、それを眩しがつているとも照れたとも見える表情を浮べながら近づいた。

    練吉は意外なことを耳にしたといふやうにちよつと房一を眺めたが、熱心に聞いていた。

    何のためか、どういふつもりか、練吉は矢庭に房一の肩をぐんと押した。そして、自分は逸早く溝をとび越して、土手を駆け上つた。下の方では、黒い一杯の人だかりの間からは何やら鋭い言葉を叫ぶ者がいた。練吉が駆け上つた後から、房一も本能的に溝をとび越えた。事態は緊迫していた。練吉が何をしでかすか知れない、といふ予感が閃いたので。

    ドイツ潜航艇の英商船撃沈はその年の一月頃からはじまつていた。日本も交戦国の中に入つていたにちがひないが、商船の被害も大したことはなく、日本の艦隊は太平洋方面に出動しているらしかつたが、南洋占拠をのぞいては格別報道されることもなく、したがつて欧洲大戦による日に上昇する好景気の他には、戦争をしている気分は殆どなかつた。

    「ホリョ?」

    「せんせい!」

    と房一が答へた。

    「ねえ。はやく」

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