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「うん、おれもこないだ通り合せたんだが、前を山支度の娘が寵をかついで歩いているんだな、するとやつぱり大声でからかつとつたよ」
と、思はず房一の微笑に釣りこまれて、練吉は気がるな笑顔になつた。いつのまにか、かた苦しい「わたし」から「僕」といふ云ひ方になつたのも気づかないで。
「はい」
「ドイツの潜航艇が又イギリスの商船をやつつけたさうですね。――なにしろ海の底をもぐつていて、ぽかつと出てくるんだからねえ、やられた方ぢやさぞおつたまげるだらうなあ」
「いや、いや」
「まだ?ふん!よせ、よせ。阿呆らしい」
「――さうだな」
徳次はきまり悪げに、しかし、又あのきよろりとした眼つきにかへりながら云つた。
練吉は軽く頭を下げながら、相手の房一がいきなり直立不動のやうに足をそろへたのを見た。
「一体どうしたというのだ。」
「何しに来た!」
――「それに、おれは今まで散々したい放題のことはして来た。そろそろ、親の云ふことは聞いてもいゝ頃だ」
男は眼を閉ぢた。何も答へなかつた。